分散クラウドとは、サーバーの設置拠点を複数箇所に分散させるクラウド環境構築方式の一つです。各拠点は小型のデータセンターとして機能しており、クラウドコンピューティング、ストレージ、ネットワーキング機能を持ちます。各データセンターは一括管理が可能です。
特定の一拠点にサーバーを設置する集中型クラウドとは対照的な方式で、データセンターがユーザーの近くにあるため、低遅延(低レイテンシー)なのが特長です。
分散クラウドが台頭してきた背景の一つとして、近年、IoTデバイスやAI搭載のシステムやデバイスが増えており、各デバイスの近くで生成される「エッジ処理」が行われる中、低遅延(低レイテンシー)のサーバーが求められるようになったことにあるといわれています。そうした環境は、従来の集中型クラウドでは実現が難しかったことから、分散型が生まれました。
数あるクラウドの方式の中には、分散クラウド混同しがちなものもあります。そこで、分散クラウドと似て非なるクラウド型との違いを解説します。
ハイブリッドクラウドも、複数のクラウドを管理するタイプであるため、分散クラウドと混同されがちです。しかし分散クラウドとは異なります。
ハイブリッドクラウドのハイブリッドとは「複数の方式を組み合わせる」という意味です。ハイブリッドクラウドは、主に複数の利用者が共有して使用する「パブリッククラウド」と、自社が占有する「プライベートクラウド」や「オンプレミスのサーバー」を組み合わせて使用する方式を指します。
それに対し、分散クラウドは、ロケーションが関係してくる点が大きく異なります。ハイブリッドクラウドでは、利用するクラウドサーバーのロケーションについては基本的にそれぞれクラウド上の一拠点となりますが、分散型クラウドでは、ユーザーの環境に合わせて物理的に近い位置にクラウドを構築します。
マルチクラウドという概念もあります。これも「マルチ」ということから、複数のクラウドを管理する方式の一つですが、分散クラウドとは異なります。
マルチクラウドとは、複数のクラウドの構築方式やクラウドのサービスモデルなどのクラウドの仕組みをいくつか組み合わせて使用することを意味する概念です。
クラウドの構築方式には、「パブリッククラウド」「プライベートクラウド」「ハイブリッドクラウド」などがあり、サービスモデルには「IaaS」「PaaS」「SaaS」などがあります。サービスモデルはそれぞれ、ユーザーが利用するサービスの構成要素が異なります。例えばIaaSはサーバーやストレージ、ネットワークなどのハードウェアやインフラを提供するサービスで、PaaSはシステム開発に必要な環境を提供するサービスです。これらを組み合わせて利用するのがマルチクラウドです。
分散クラウドと比べると、マルチクラウドはロケーションの考え方が含まれていない点で異なります。マルチクラウドでは、利用するクラウド方式やサービスによっては、世界中に点在するサーバーを利用することも可能ですが、ユーザーの近くのロケーションに構築する分散クラウドとは異なります。
また、分散クラウドは、複数のクラウド環境をすべて単一のコントロールプレーンから制御することができます。マルチクラウドであっても、複数のクラウドを管理する機能を持つこともありますが、単一のコントロールプレーンで管理するのは難しいのが一般的です。その点が、分散クラウドとマルチクラウドとのもう一つの違いといえます。
分散クラウドには、さまざまなメリットがあります。
分散クラウドでは、ユーザーに物理的に近い地点でサービス提供されることから、低遅延のコンピューティングが実現します。遅延問題が解消されることにより、快適性とともにパフォーマンスの向上が期待できます。
世界的に生じているネットワーク障害のリスクは、グローバルネットワークを利用するに当たって、避けることは困難です。そうした中、分散クラウドによって拠点を効率的に分散させることにより、関連する障害からの影響やサービス停止のリスクを軽減します。
分散クラウドでは、単一のコントロールプレーンから、複数のクラウドの効率的な管理が可能です。また、複数のクラウドにおいて一貫した拡張性の確保が可能になります。
分散クラウドでは基本的に、サービス提供元の業者が分散したサービスを一括管理し、責任を負います。そのため、システム管理者がシステム設計および運用管理を行う際の負荷軽減も期待できます。またガバナンス管理も行ってくれるため、コンプライアンスの遵守も実現します。
多くの場合、厳格に守るべきデータやIT資産については、ロケーション制限があり、パブリッククラウドが利用できないこともあります。その場合でも、分散クラウドでは適合するロケーションで設置が可能であれば、利用ができます。